ビートの純正パーツ再販・再生産の裏側

2020/02/13 ビートブログ

ホンダは2017年の夏、以下のようなリリース文とともに、販売を終了したスポーツカー"ビート"用純正補修パーツの再販を発表しました!

 

 

ビートは1991年5月に誕生し、今年で26年を迎えました。(2017年現在)

Hondaとしても「ビートをより長く楽しんでいただきたい」という想いで、

この度、一部純正部品の生産を再開することを決定しました。

生産再開が決定した部品から順次公開致しますので、

是非、Honda 純正部品をご使用ください。

 

 

これは一時的なものではなく継続的な計画で、ぞくぞくと供給対象部品も増えていっています。果たして、なぜホンダは発売から約30年も経過したモデルへのパーツ供給を決めたのでしょうか。そして、この実現までにどのような道のりがあったのでしょうか・・・ホンダ部品事業部の方のお話です。

 

ホンダの想いとして、生産が終了した車種でも一定の需要がある場合には継続的に補修部品を販売しています。しかし、部品製造を行う協力会社(サプライヤーなど)の生産設備や金型の有無などの理由で、すべての部品を生産できない状況があるといいます。加えてビートの補修部品提供は2015年時点で継続販売率が約30%で販売中止は約70%であるといいます。

 

車両の販売・生産終了後も多くのファンから愛され続け、現存率が約60%もあるというのに、ビートを生みだしたメーカーであるホンダの補修部品提供状況がこのようなかたちでは、いくらビートオーナーが大切に乗り続けたいと思っても無理があります。

補修部品の市販品がほぼなく、限られた純正部品だけで対応しなければならない状況がこれ以上続けば、ビートオーナーはますます減り個体そのものも消えていくのは目に見えていますね。

 

そんな状況の中でホンダの部品事業部は補修部品の再販に挑みました。

 

全生産台数の約60%が未だに残存多くの人に愛され続けているビート

 

 

------ホンダがビート用補修部品を再販するというニュースを聞いて驚きました。こうした再生産はよくあるのでしょうか?

 

渡辺「これまでにも例えば、インテグラ・タイプR用のブレンボ(製ブレーキキャリパー)を再生産するなど、個々の事例としては無い話ではありませんでした。ただし1車種用のパーツを広範に再生産するというのは、ホンダの歴史を振り返ってみても初めてだと言えますね。」

 

柴垣「背景にはビートの残存台数の多さもあります。総生産台数3万3892台のうち2016年末の残存台数は1万9759台と、約6割もの車両が残っています。通常は量産終了から20年を過ぎた段階での残存率は10%未満。いかに長く愛されているかが分かります。」

 

 

------それほど多くが残っているのですね。

 

麻生「えぇ、我々としても驚くべき残存率でした。これを受けてホンダとして、ファンの皆さんが乗り続けるために何かできないかと考えて今回のプロジェクトに至ったというわけです。」

 

 

------ファンの思いがメーカーを動かしたんですね。さて、補修部品についてですが、一般的に純正パーツは何年くらい供給しているものでしょうか?

 

麻生「通常は量産終了後10年~15年目の段階で、各部品サプライヤー様に最終生産のお願いをします。このとき、ある程度まとまった数量を作ってもらいます。その後、量産終了後15年~20年目までを目安に、ホンダが在庫販売していくという形です。」

 

中村「量産終了から20年も経過すると求められるパーツの種類も限られてきまして、全補修部品中の約10%のパーツを供給するというのが通常です。それもブレーキパッドやエアフィルターなど、走らせるために必要最低限のものが主体になります。」

供給パーツの種類をさらに増強、新規作成も数多い再販までの道のり

 

 

------車検を通すため、ということですか?

 

中村「いえ、車検を通してさらに長く乗るというより『なんとかあと少しだけ走らせたい』といったご要望が多いようです。」

 

 

------なるほど、ビートではどうでしょうか?

 

中村「ビートに関してはそもそも(今回の再販とは無関係に)20年経過時点で全体の31%が供給されていました。これは全1600点中の500点ほど。特徴的なのはそのパーツ内訳でして、幌部分やドア・モールディングといった走行自体には影響のないものも多く含まれていました。」

 

 

------なんとか走らせるだけの最低限ではなく、キレイに直して乗りたいオーナーが多いということですね。それでは、実際に今回の再販に至るまでにはどんな手続きを取ったのでしょうか?

 

柴垣「約3年前からプロジェクトをスタートさせています。実際にパーツ生産するためにはどんな体制をとったらいいのかを検討しつつ、お客様ニーズはどこにあるのかを把握するための調査を行いました。オーナーには有名なビートのワンメイク大規模イベント《ミート・ザ・ビート!》の2015年と2016年度では大規模なアンケートを取らせて頂きました。またホンダカーズ(ディーラー)をはじめとしたショップ側にも話を聞きつつ、300部品の再生産を検討しています。これは供給が終了した約1100点のうちの約3割になりますね。」

 

 

------実際にパーツ生産をするにあたっては苦労があったのではないでしょうか。例えば当時の設計図面などは残っていましたか?

 

渡辺「いえ。図面が残っていない部品も多くございました。また、いざ再生産しようと思っても、部品の金型がなかったり、当時に使われていた素材が今では入手不可能だったりという困難に遭遇しました。」

 

中村「たとえば今回、フロントブレーキキャリパーを販売できるようになりましたが、当時の金型が存在していなかったので新規に起こしています。」

 

 

------それは大掛かりですね。

 

麻生「ただ金型を起こすだけで終了ではないんですよ。新規に型を起こしたり、素材変更が行われるなどして当時の生産状況と変わったものは製品自体にも変化が生じます。こうしたものに関しては我々ホンダが再度、強度や耐久性などが所定要件を満たしているかを確認してから実際の供給を行っています。」

 

中村「実際の製造工程でもクリアすべき点はあります。たとえば先程のキャリパーですが、新車用製品の生産ラインに混流させることはできないため、そのライン脇でビート用にひとつひとつ手組みで仕上げることにしました。」

 

 

------それは大変。価格も高くなりそうですね。

 

中村「一般的な流れではそうです。しかし、コストがかかるからといって販売価格に上乗せしてはお客様の手の届かない金額になってしまいます。ですから企画全体でコストを考え、キャリパーの販売価格については生産終了前段階の2倍弱ぐらいに抑えることができています。」

 

 

------旧車の世界では純正部品でも価格が10倍レベルに達することも珍しくありませんから、現実的な価格なのは嬉しいです。

※再販パーツの多くは新車流通価格の1.5倍程度に収まっています

 

中村「他に特徴的な前後異径サイズのスチールホイールも再生産していますが、これにはちょっとした幸運がありました。というのも本来であれば金型は無くなっていたり、然るべき年数が経過しているのですが、たまたまフロントの金型だけが部品サプライヤー様に残っていたのです。このため再販にあたってはリアの金型を作成するだけで済みました。」

 

 

------それは運がいいですね。ところで、そうした苦労をせずとも金型が残っているものだけを生産すればいいのではないですか?

 

渡辺「今回の企画では、ご要望の多かった部品をいかに多くの種類にわたって再販できるかというのがポイント。よって、こちらの都合ではなくお客様のご要望を優先しています。たとえばシートベルトなどはご要望の多いものでしたが、当時の素材がなくなっていたため、マテリアルから手配し直して作っています。再販までには手がかかりましたが、おかげさまで発売開始と同時に多くのオーダーをいただきました。実は想定の10倍量の注文が入っているんですよ。」

 

 

------それはすごい。

 

柴垣「シートベルトに限らず、再販部品への注文数は我々の予想を大きく上回っていまして、すでに全体で予定数量の2倍の注文を頂いています。」

 

 

------要望に応えた甲斐がありましたね。

 

渡辺「また、今回はコンロッド等のエンジン・ミッション関連の部品もラインアップ。実はこうした機関系パーツへの要望は、お客様の声としてはそれほど多くは上がってきていませんでした。しかし、ホンダカーズをはじめとしたプロの方と協議する過程で、今後はこうした機関部品の交換需要は高まってくるだろうと判断して再生産を決めました。」

 

 

------言わば攻めの再販もあるわけですね。さて、今回の再販部品はどこで注文できるのでしょうか?

 

中村「全国のホンダカーズ(ディーラー)でご注文可能です。注文にあたって車検証等は不要ですが、事前に弊社ホームページなどで部品番号等を確かめてからご来店いただくとスムーズです。」

 

 

------《生産終了したクルマのパーツを注文するだけのためにディーラーへ行くのは気が引ける》という人がいそうですが・・・

 

中村「そんなことは気にしないでください。むしろ全国のホンダカーズでは、どういったお客様がホンダ車を愛してくれているのかが直接わかる、またとない機会と捉えています。むしろ大歓迎なんですよ。笑」

 

 

 

今後も継続的な再販部品をリリースしたい想いは強いようですが、2015年の検討開始から今日に至るまで時間を要している部品もあるようで、一部の部品では簡単に再販できない事情もあるようです。

 

販売中の部品やこれからリリース予定の部品などはホンダの公式ホームページで確認できますのでそちらも合わせてチェックしてみて下さい!!